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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)3140号 判決 1985年10月30日

原告

飯塚喜代子

ほか一名

被告

東都自動車株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自原告飯塚喜代子に対し一四四八万九七六九円、原告飯塚ミつに対し二三〇万円及び右各金員に対する昭和五七年九月二一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、各自原告飯塚喜代子に対し四四六九万二五六九円、原告飯塚ミつに対し五四九万二五〇二円及び右各金員に対する昭和五七年九月二一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五七年九月二〇日午後一一時五四分頃

(二)  場所 東京都新宿区上落合一丁目四番五号先交差点

(三) 加害車両 被告栄堅太郎(以下「被告栄」という。)運転の普通乗用自動車(練馬五五え七八一五)

(四) 被害車両 飯塚弘司(以下「弘司」という。)運転の原動機付自転車(新宿区お二五二一)

(五) 態様 被告栄は、交差点で右折しようとする際青信号を確認し、対向車二台を見送つたが、その後に続く弘司運転の被害車両を確認しないで右折したため、加害車両を右被害車両に衝突させ、弘司に対し外傷性頭・胸・腹部臓器損傷の傷害を与え、翌二一日同人を死亡するに至らしめた。

2  被告らの責任

(一) 被告栄は、加害車両を運転して早稲田通りを小滝橋方向から中野方面に向けて走行してきて本件交差点に差しかかり、本件交差点を右折しようとしたものであるが、そもそも右折車両の運転手においては交差点中央部を徐行したうえ前方を注視し、対向直進車両がある場合には、交差点中央部において一時停止して対向直進車両の通過を待ち、後続車両のないこと及び安全を確認したうえで、右折を開始しなければならない注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、前方不注視の結果、たまたま早稲田通りを中野方向から小滝橋方面に向けて進行し、本件交差点の青信号の標示に従い本件交差点を直進しようとした弘司の運転する被害車両を見落し、かつ、十分な徐行すらしないまま右折を開始し、本件事故を惹起せしめたものであるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

(二) 被告東都自動車株式会社(以下「被告会社」という。)は、加害車両を業務用に使用し、自己のため運行の用に供していたものであり、被告栄は、被告会社の業務執行中右のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから、被告会社は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び民法七一五条一項に基づく損害賠償責任がある。

3  損害

(一) 積極損害 合計一三九万四三六〇円

(1) 入院治療費 三一万六七八〇円

(2) 文書料 九〇〇〇円

(3) 葬祭費 一〇六万六五八〇円

(4) 諸雑費 二〇〇〇円

(二) 逸失利益

(1) 弘司は、昭和三三年三月二二日生の男性で、本件事故当時満二四歳であつた。

(2) 弘司は、昭和五七年四月一日から本件事故日まで、酒類食料品の販売業務を営む株式会社マルタ酒店に勤務していたが、この間(一七三日)右会社が弘司に対し支払つた給与額の合計は一〇八万円であり、同年四月ないし七月までの四ケ月間の労働に対する賞与として支払つた分は一八万円である。

右事実を前提に弘司の一年間の右会社からの収入を計算すると、左記のとおり合計二八一万八六一三円となる。

一〇八万円÷三六五日×一七三日+一八万円÷四ケ月×一二ケ月=二八一万八六一三円

(3) 弘司は、右のように株式会社マルタ酒店に勤務するかたわら、昭和五七年八月二七日から東京都中央卸売市場淀橋市場において青果物問屋を営む株式会社丸正長田屋に勤務していたが、同日から本件事故により死亡するまでの間(二二日)のうち一九日間合計一一七時間働き、合計九万六六〇〇円の給与を得ていた。

右事実を前提に弘司の一年間の右会社からの収入を計算すると、左記のとおり合計一六三万三四一八円となる。

九万六六〇〇円÷二二日×三一日×一二ケ月=一六三万三四一八円

(4) 前記事情を前提に逸失利益を算定すると、弘司の逸失利益は合計七〇四六万五四一一円である。

ア 年間収入 合計四四五万二〇三一円

イ 新ホフマン係数 二二・六一一

ウ 生活費の控除 三〇パーセント

四四五万二〇三一円×(一-〇・三)×二二・六一一=七〇四六万五四一一円

(三) 慰謝料

(1) 原告飯塚喜代子(以下「原告喜代子」という。)は、昭和五六年一一月二二日弘司と挙式し、婚姻したものであるが、新婚生活わずか一〇ケ月で本件事故に遭遇し、夫を失つてしまつたものである。右原告の精神的損害を慰謝するには一五〇〇万円が相当である。

(2) 原告飯塚ミつ(以下「原告ミつ」という。)は、弘司が四歳のときに夫を失い、その後女手一つで子供達を育ててきたが、弘司において中学校卒業後直ちに右原告とともに働き生活を支えてきたこともあり、子供の中でも弘司をもつとも頼りにしていたものである。右原告の弘司を失つたことによる精神的損害を慰謝するには五〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用

原告らは、本件訴訟を提起するに当たり、着手金一〇〇万円、成功報酬金三五〇万円の約定で、原告ら代理人に対し、訴訟委任をし、昭和五八年三月二八日着手金一〇〇万円を支払つた。なお、右弁護士費用合計四五〇万円の負担割合は、原告喜代子において四〇〇万七四九八円、原告ミつにおいて四九万二五〇二円である。

(五) 損害の填補

原告らは、本件事故に関し、自賠責保険金二〇三二万一四五〇円を受領し、これを積極損害の内、入院治療費分の内金三二万一四五〇円及び逸失利益分の内金二〇〇〇万円にそれぞれ充当した。

(六) 相続

(一) 法定相続人

弘司の法定相続人は、妻である原告喜代子及び実母である原告ミつの二名である。

(二) 遺産の分割協議

原告らは、本件訴訟を提起するにあたり、協議の上、本訴請求権のうち原告飯塚ミつ固有の慰謝料請求権を除き、弁護士費用のうち同原告の負担金相当金額については同原告が、その余については原告喜代子が、それぞれ相続することを合意した。

4  結論

よつて、原告らは、被告会社に対し自賠法三条、民法七一五条一項に基づき、被告栄に対し民法七〇九条に基づき、原告喜代子に対し各自前記損害金合計七〇五四万五八一九円の内金四四六九万二五六九円、原告ミつに対し各自前記損害金合計五四九万二五〇二円と、それぞれ本件事故により弘司が死亡した日である昭和五七年九月二一日から各支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(四)の事実及び(五)の事実中弘司が本件事故により負傷し昭和五七年九月二一日死亡したことは認めるが、原告ら主張の事故の態様については否認ないし争う。

2  同2の(一)の事実中事故の態様は否認し、被告栄の過失ないし損害賠償責任は争う。同(二)の事実中被告会社が加害車両の運行供用者であること及び被告栄が被告会社の業務執行中に本件事故を発生せしめたことは認めるが、被告会社の損害賠償責任は争う。

3  同3の(一)ないし(四)の事実は不知。同(五)の事実中自賠責保険金の支払については認めるが、その充当関係は不知。

同(六)の事実は争う。

4  同4の主張は争う。

三  抗弁

1  被告栄の無過失

(一) 本件事故は、被告栄において本件交差点で一旦停止し、前方中野方面から進行してくる対向車を数台見送り、その後対向車のタクシーがライトを消して停止線に停車するのを確認し、かつ、下落合方面から本件交差点へかかる停止線にライトを消して停止していたタクシーがライトをつけて左折する態勢に入つているなど安全を確認して右折を開始したところ、停止していた対向車のタクシーの横わきから弘司の運転する被害車両が赤信号を無視してすごいスピードで飛び出してきたために発生したものであるから、被告栄には全く過失がなく、弘司の信号無視による一方的過失が本件事故の原因である。

(二) 加害車両には、構造上の欠陥または機能の障害はなかつた。

2  過失相殺

(一) 弘司には、前記のとおり赤信号を無視して高速で本件交差点に突入した過失があるほか、ローンを返済するあめ自ら過酷労働を課しており、その結果、睡眠不足と過労のため注意力、集中力を欠いていたものと思われ、このような過酷な勤務状態が本件事故を誘発した可能性が非常に高い。

(二) 弘司は、本件事故現場においてヘルメツトもかぶらず、信号にも注意していないし、スピードも落としていない。また、衝突を避けるような動作もほとんどない。

(三) 本件事故における弘司の過失は大きいといわざるを得ないから、被告らは過失相殺の主張をする。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、(一)の事実は否認し、(二)の事実は不知。

2  同2の(一)の事実は否認する。同(二)の事実中、弘司がヘルメツトをかぶつていなかつたことは認めるが、その余は否認する。同(三)の主張は争う。

第三証拠

当事者双方の証拠の提出、援用、認否は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告ら主張の日時場所において加害車両と被害車両が衝突するという本件事故が発生し、これによつて弘司が外傷性頭・胸・腰部臓器損傷の傷害を負い、昭和五七年九月二一日死亡したことは当事者間に争いがない。

二  そこで、先ず、本件事故の発生状況について検討する。いずれも成立に争いない甲第五号証の一ないし一四、同第六号証ないし第八号証の各一、二、同第一七号証の一、二の各記載及び原告喜代子、被告栄各本人尋問の結果を総合し、前記当事者間に争いない事実に鑑みると、被告栄は、昭和五七年九月二〇日午後一一時五〇分頃、加害車両に客を乗せて新宿区歌舞伎町から板橋区大山町に向うべく早稲田通りを小滝橋方面から中野方面に向けて走行してきた時速約四〇キロメートルの速度で本件交差点手前に差しかかつたのであるが、対向車線の車両信号が青であつて前方中野方面から進行してくる二、三台の車があつたため、これを通過させるべく速度を時速約五キロメートルに減速してその通過を待つていたところ、これらが通過し車が途絶えたので、更に中野方面から進行してくる車両がないものと軽信し、その車両の有無を確認しないまま直ちに下落合方面に右折するべく加速し、時速約一七キロメートルの速度で右折を開始した直後、早稲田通りを中野方面から小滝橋方面に向けて右交差点を直進してきた弘司運転の被害車両に衝突したこと、が認められる。

被告栄は、本人尋問において、事故前の状況について、小滝橋方面から中野方面への信号が青のときに交差点内に入つて一時停止し、対向車を二、三台通過させたのち対向車が停止ラインの手前で停止したことを確認し、更に中野方面から小滝橋方面に渡る横断歩道の信号が赤であることを確認したうえ右折の体勢に入つた旨供述し、証人黒川啓三もそれに添う証言をするが、被告栄本人の右供述部分は、甲第一七号証の二の記載(特に加害車両のチヤート紙の速度記録)に照らしてたやすく惜信し難く、また、証人黒川啓三の右証言部分は、右甲第一七号証の記載と甲第一〇号証の一、二、甲第一三号証の一ないし三、同第一三号証、同第一四号証の一、二、同第二三、第二五、第二六号証の各記載に徴しにわかに信用することができず、更に、証人黒川啓三の証言と同趣旨の乙第一号証の記載も、同様に信用することができない。なお、被告らは、被告栄が右交差点で右折するに際し十分安全を確認したのであるが、被害車両が赤信号を無視して猛スピードで飛び出してきたため本件事故が発生した旨縷々主張するが、被告栄が被害車両と衝突するまで被害車両に気づいていないことや前掲甲第一七号証の一、二の鑑識結果報告書の記載と比較対照すると、これに添うが如き証拠はその信憑性に乏しく、到底採用するに値する主張とは認められず、他に前記認定を覆えして、被告らの右主張を認めるに足りる確たる証拠は見当らない。

三  進んで、被告らの責任について判断する。

1  前記二に認定した事実を前提とすると、被告栄は、本件交差点で右折するに際し、対面信号が青であつて既に通過した車両のほかなお中野方面から本件交差点に直進してくる車両があることが十分予想されたのであるから、右折を開始する前に自車線で一旦停止して交差点に進入してくる車両の有無を十分確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、一旦停止も安全も確認しないまま右折進行し、衝突してはじめて被害車両を確知したものというべきであるから、被告栄に過失があつたことが明らかである。

よつて、被告栄は、民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負うものといわなければならない。

2  また、被告会社は加害車両の運行供用者であることは当事者間に争いがなく、加害車両の運転者たる被告栄に過失のあることは前記のとおりであるから、被告会社の免責の抗弁は採用し難く、被告会社は、自賠法三条による損害賠償責任を負うべきである。

四  よつて、原告らの被つた損害について判断する。

1  積極損害

成立に争いない甲第二号証、同第四号証の一ないし三、その方式と弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一号証の一、二、甲第三号証の一ないし三〇の各記載によれば、原告喜代子は、入院治療費、葬祭費等としてその主張のとおり合計一三九万四三六〇円を支出したことが認められるが、葬祭費としてはその支出した一〇六万六五八〇円のうち七〇万円の限度で本件事故と相当因果関係ある損害と認めるのが相当であるから、積極損害は合計一〇二万七七八〇円となる。

2  逸失利益

成立に争いない甲第二二号証の一、方式と弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一五号証、同第一六号証の一、二、同第二二号証の二の各記載と原告喜代子本人尋問の結果を総合すれば、弘司は、中学卒業後母と姉が経営する魚屋の手伝いをするかたわら定時制高校に通学していたが、その後魚屋の手伝いを辞めて株式会社猪瀬商店に勤めるようになり、昭和五五年当時年間二二八万五四三〇円の収入を得ていたこと、ところが弘司は、昭和五七年三月右猪瀬商店を辞め、義兄に頼まれて翌四月一日から株式会社マルタ酒店に勤めるようになつたが、本件事故当日までボーナスを含めて一二六万円の収入を得ていたこと、弘司は、右のようにマルタ酒店に勤めていたが、右酒店の勤務時間は午後一時から午後八時までであつたため、昭和五七年八月二八日から淀橋青果市場内の株式会社丸正長田屋に勤め、夜半の一二時から朝六時まで野菜の区分けの仕事をし、本件事故当日までの間に九万六六〇〇円の収入を得ていたこと、が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、弘司が本件事故当時のようにマルタ酒店と丸正長田屋の双方に勤務し続けるとすれば、年間四〇〇万円を超える収入を得ることができたとも考えられるが、丸正長田屋の勤めはいわゆる一時のアルバイト的なものであるうえ、その勤務時間とマルタ酒店の勤務時間を考慮すれば長期間双方に継続的に勤務するというようなことは到底できなかつたものと推認することができるから、前記認定の収入を前提として弘司の逸失利益を算定するのは相当でない。そこで、弘司の昭和五五年当時の収入、マルタ酒店での収入、性別、学歴、センサスの平均給与等彼此総合すれば、弘司は、本件事故により死亡しなければ六七歳まで四三年間稼働し、その間を通じ控え目にみて毎年三〇〇万円程度の収入を得られたものと推認するのが相当であるから、右の金額から生活費としてその三割を、またランプニツツ式計算方法により年五分の割合による中間利息をそれぞれ控除して右死亡時の現在価額を算出すると、その額は、次の計算式により三六八四万五三九〇円となる。

3,000,000円(1-0.3)×17.5459≒36,845,390円

なお、成立に争いない乙第五号証の一、二によれば、弘司の相続人は原告両名であるが、弁論の全趣旨とこれにより真正に成立したものと認める甲第二七号証によれば、弘司の逸失利益の損害については、原告喜代子が全額相続する旨の合意が成立していることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

3  慰藉料

原告喜代子本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、原告喜代子は、新婚生活わずか一〇ケ月で働き者の夫を失い、また、原告ミつは頼りにしていた弘司を失つていずれも多大の精神的苦痛を被つたことは容易に推認し得るところであるが、これらの精神的苦痛に対する慰藉料としては、原告喜代子につき一〇〇〇万円、原告ミつにつき三〇〇万円が相当と認められる。

4  過失相殺

前記二に認定した事実に前掲甲一七号証の一、二の記載及び原告喜代子本人尋問の結果を総合すれば、弘司は、被害車両を運転して中野方面から本件交差点に差しかかり、青信号で直進して交差点を通過しようとしたものと認められるが、対向車線から左折(加害車両からみて右折)するため右交差点に進入しようとしている加害車両を発見し得たものと推認されるから、右加害車両と衝突することを回避するため、同車両の動きに注意し、適宜減速徐行して進たすべき義務があつたにもかかわらず、これを怠り、時速約三〇キロメートルで交差点を直進通過しようとした過失があつたものと推断することができる。

したがつて、損害賠償の算定にあたつては、弘司の右過失を斟酌して三割減額するのが相当と認める。

そうだとすれば、原告喜代子の以上の損害は、積極損害一〇二万七七八〇円、逸失利益三六八四万五三九〇円、慰藉料一〇〇〇万円、以上合計四七八七万三一七〇円から三割を減額した三三五一万一二一九円(一円未満切捨て)となり、原告ミつの損害は、慰藉料三〇〇万円から三割を減額した二一〇万円となる。

5  損害の填補

本件事故に関し、自賠責保険から二〇三二万一四五〇円が支払われたことは当事者間に争いないが、弁論の全趣旨によれば、右保険金は、原告喜代子の前記積極損害、逸失利益、慰藉料の内金に充当されたものと認めるのが相当であるから、原告喜代子の有する損害賠償債権は一三一八万九七六九円となる。

6  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告らが本件事故の責任を否定し、任意に損害の賠償に応じないため、原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、相当の着手金と報酬金を支払う旨約したものと推認されるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係ある損害として認めうる弁護士費用は、原告喜代子につき一三〇万円、原告ミつにつき二〇万円が相当と認める。

五  以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、原告喜代子が一四四八万九七六九円、原告ミつが二三〇万円及び右各金員に対する本件事故により弘司が死亡した日の昭和五七年九月二一日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから正当として認容するが、その余は理由がないとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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